三年前のセミナーで、
「本当の意味でのタフな精神を身につけるには、いちばん親しい人に愛情を伝えられなくてはいけない」
と君は話したね。
実はその時、何と情けないことを言う奴だと思ったんだよ。
いったい全体、そんなことが何でタフな精神と関係あるのかわからなかった。
ワイフに「愛してる」って言うのにどうしてタフな精神が必要だって言うんだろう?
そんなことは、誰だってできることじゃないか。
よし、それがいかに簡単なことかを証明しよう、と思った。
ところが、
言おうとして咳払いするんだが、そこから先が続かない。
言葉が出そうになっては、引っこんでしまうんだ。
ついに、ワイフが新聞から顔を上げ、「何か言った?」と聞いてきたが、
「いや、何にも」と答えてしまった。
つぎの瞬間、私はいきなり立ち上がって彼女の方に歩きだしていた。
どぎまぎしながらワイフの読んでいた新聞を脇にどけ、
「アリス、愛してるよ」って言ったんだ。
一瞬、彼女は面食らったようだった。そのうちに目が涙でうるみ、やさしい声でこう言った。
「エド、私もあなたを愛してるわ。でも、あなたがこんな風に言ってくれたのは二十五年ぶりよ」ってね。
それから私たちは、うまくいかなかった時も、愛情さえあれば必ずいつかわかりあえるはずだねと話し合った。
あの日、君が話していたことがやっとわかりかけてきた。
「タフな経営管理」とはどういうことで、実際にはどうすればいいのか、手掛かりがつかめかけたんだ。
それからというものこれに関する本を読みあさった。
確かにジョー、いろんな人がいろんないいことを書いていた。
それを読んでいくうちに気がついたんだ。
家でも会社でも、愛情を持って人と接することでどれだけ人間関係が変わるかってことにね。
ジョー、私なりに君にお礼を言っているつもりなんだよ。
ちなみに、私は今では副社長になり、「頼りになるリーダー」なんて呼ばれてますよ。
皆さん、私の話はこれで終わりだ。さあ、今度はジョーの話を聞いてください。
―こころのチキンスープ(ダイヤモンド社) 「ビッグ・エド」より
全世界で1億部以上売り上げた伝説の書籍、マーク・ビクター・ハンセン著「こころのチキンスープ」
自分が今でも覚えていて忘れないのは、冒頭で挙げた第一章「愛の力」の中の「ビック・エド」。
「簡単だろう。妻に『愛してる』と言うことくらい」
長く一緒に暮らしている内に誰もがいつしかそう思ってしまって、結局は最後まで言いだせないその言葉。
きっとビッグ・エド以上に口下手で不器用な日本人なら尚更なんじゃないかな。
きっとその言葉は、勇気を振り絞らないと決して出てこない。
寧ろ、「そんな事わざわざ言わなくても伝わっているから問題無い」と自分に言い聞かせては、またその言葉をどこかへ仕舞い込む。
でも、そこから逃げてはいけない。
そして人が今よりももっと優しく、そしてもっとタフになるためにそれは必要なことなんだとジョーは言う。
最初はジョーのその言葉を疑ったエド。そしてやがて、その言葉を発するにはどれだけタフな精神が必要なのかに気付くエド。そして、最後はジョーを称賛して讃えるエド。
私がアメリカ人に時々憧れるのは、こういう気持ち良い生き方が素直にできる所なんだろう、そんな事を改めて思ってしまった。
この世の全ての素晴らしい人達へ。