e16eb4784afd10a48e0553162d631157_s

が文章というものに興味を持つようになったのは中学生の頃だった。

当時は時代物の小説にやたら興味があり、吉川英治や池波正太郎、山岡荘八のような時代小説を夢中になって読み漁った。

ふいにある日、読んでいるだけじゃなく、実際に自分で文章を書きたいと思うようになった。

 

しかし実際に自分で書いてみると、全くもって上手く書けない。

 

よく、「思ってることを上手く言葉にできない不器用な人は、文章にしてみるといい」なんて人は言うけど、

そもそも思ってることを言葉にすること以上に、思ってることを文章にすることの方がよっぽど難しいんじゃないか、そう思ったりした。

そう、私は思ってることを言葉にするのも、文章にするのもどっちも苦手な、どうしようもなく不器用な子供だった。

だからよく大人や教師には「何考えてるのか分からない子供」なんて言われたりもした。

 

スポンサーリンク

朝日新聞の広告で見つけた”出逢い”

そんなある日、当時家で取っていた朝日新聞を読んでいたら、紙面の隅にこんな小さな広告を見つけた。

 

文章講座 文章が上手くなりたい人へ

 

それは読んでいて思わず見落としてしまいそうな位小さな広告だった。

だが、当時の私はその広告になぜかすごい興味が沸き、思わず親を説得して申しこんでしまった。

申しこんで暫くすると、文章講座の受講に必要なテキストや返信用の封筒などが入った段ボール箱が家に届いた。

その中に、こんな一冊の本が入っていた。

20160603_173239182

文章の実習 大隈秀夫著(日本エディタースクール出版部) 定価1500円

 

この本、今では絶版となっているらしく、Amazonでも新品では取り扱っていない。

実は写真の本も文章講座から送られてきた当時のものではなく、今から10年程前に私がAmazonで再購入したもの(当時は新品でAmazonから購入できた)

多分実家に帰って数時間位あちこち探せば当時のものが見つかるかも知れないが、そこまでするのも面倒なのでAmazonで買い直したというわけ。

なぜそこまでして再購入したのかと言うと、

 

この本があまりにもすご過ぎるから。

 

あれから30年経った今でも時々読み返したくなる位、面白くてためになる本だから。

 

 

この本の著者は新聞記者からフリーのルポライターへ転身した経歴を持つ、大隈秀夫氏。

20世紀を代表するジャーナリスト、大宅壮一の開いた「大宅マスコミ塾」の門下生として従事し、その後日本エディタースクールで多くの若手文筆家を育てた、筋金入りの文章の達人。

 

この本の凄いのは、初版が発行されたのが1975年と、今から40年も前の古い本にもかかわらず、語っている内容や例文で取り上げている文章は全く古臭くなく、寧ろライトノベルやブログの発達した現在の21世紀でも殆ど通用すると言っていい位にそのまま当てはまる所。

 

例えばこの本の13章、「紋切り型の表現を避けること」では、誰もがよく使うような紋切り型の文章を使わないようにと教えている。

紋切り型の文章とは、次のようなものだ。

 

・・・と業者はうれしい悲鳴をあげている

・・・とホクホク顔

・・・とエビス顔

一瞬、被告は複雑な表情を浮かべた

・・・ガックリと肩を落とした

 

大隈氏は、プロのライターがこのような表現を使うのは「逃げ」であると言う。

適当な言葉が見つからないので、だれかが使った有り合わせの言葉を持ってきて、あっさり逃げる。これでは読む人に感銘を与えることができない。

報道の文章というものは自分が見たまま、感じたままを自分の言葉で表現し、真実へ肉迫するものでなければいけない。

 

そして章の終りに、紋切り型の表現を一切使わず、自分の言葉のみで迫力ある情景を伝えている、作家、司馬遼太郎の文章を例文として取り上げ、締めくくる。

 

江藤は、東京を発つ。

すでにそのことは決意している。

しかしその前夜の江藤の心境は、振子のように左右にうごきつづけている。

気のみは、昂揚しきっていた。

佐賀へくだり、兵を挙げ、薩摩と土佐に呼応させ、かれが第二の幕府ときめつけている大久保政権をたおそうというのが、かれの気であった。

気は、ふつふつと沸いてやまない。

司馬遼太郎 「歳月」より

 

ただこの本の難点は、大隈氏が良い例文として挙げる文章の書き手が、ことごとくこの世を去っている(笑)という所。

大宅壮一、入江徳郎、江國 滋(作家、江國 香織の父)、細川忠雄(当時読売新聞随一の書き手と言われた記者)といった具合に。

でも、だからこそ思うのは、良い文章というものは時代の垣根というものは無いんだなということ。

大隈氏が言う良い文章とは、わかりにくい言葉を一切使わず、読み手の気持ちを常に考え、そして他の人間には出せない、自分だけの言葉で、力強く伝える文章。

 

正直、文章講座を受講すると決めた時、最初は小難しい理屈や気取った表現みたいなことを教えてるのかなと、少し疑ったりもした。

それがまさかこんな文章講座だったなんて。

この本は私にとって文章の全てを教えてくれた本で、これからも一生大事にしたいと思える事を沢山教えてくれた。

全ての文章を書く人にお薦めしたい、そんな本。