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「会社の飲み会に行きたくない理由」というタイトルなのに、のっけから野球の話をするのは恐縮なのだが、かつて甲子園を沸かせたホームランバッター、元木大介選手のことを少し書きたいと思う。

 

知っている人も多いと思うが、元木大介選手は今から25年以上も前に甲子園でホームランを量産した上宮高校のスーパースターだ。
そのホームランの数は甲子園大会通算6本。これはあの清原和博選手が甲子園で打った13本に次ぐ、甲子園大会史上2位の記録である。

 

因みに、今年世間で大注目されている、早稲田実業の清宮幸太郎君の甲子園でのホームラン数は2本。

更に言えば、あのヤンキースで活躍した国民栄誉賞スラッガー、松井秀喜選手の甲子園通算ホームランは4本である。

勿論、甲子園のホームラン数だけで選手の実力が全て測れるわけではないが、元木大介選手の6ホームランという記録は、やはり今でも甲子園では飛び抜けている数字であるのは事実なのである。

 

さて、そんなスター性のある元木選手をプロ野球が放っておくはずもなく、多くのプロ野球チームが元木選手に注目した。

結局その後紆余曲折あって1990年、巨人に入団した元木選手は、入団してすぐプロのレベルの高さに愕然としたという。

 

「ああ、プロは何てレベルが高いんだろう。今まで自分がプレーしてきた高校野球のレベルとは雲泥の差だ。パワー、スピード、何もかもが違う」

 

そう感じた元木選手は、このままプロでホームランバッターとして自分がやっていくのは無理だと考えた。

そこで元木選手は悩んだ末、かつての甲子園を沸かせたホームランバッターという、華々しい立ち位置を封印する。

 

そしてその代わりに、コツコツとシングルヒットを重ね、相手投手が嫌がることを徹底的に行う、言ってみれば、地味でみみっちい姑息なプレーヤーへと転身するのである。

 

しかしそのお陰で元木選手は巨人で14年間もプレーできた。

1億を超える給料も手にすることができた。

元木選手はそれまでの輝かしいホームランバッターという自分のスタイル、生き様をあっさりと捨てたのだ。

 

全てはプロ野球という世界で、巨人というスター揃いのチームで、しぶとく生き残るために。

 

それは恐らく正しい選択だったのだろう。

実際に甲子園でホームランを量産した多くのスター選手がプロ入りして、その後大した活躍もできずに寂しく引退する選手が、過去にどれだけ数多くいたかを考えればそれは容易に分かる。

元木選手の決断は賢明で、正しかった。

だがなぜだろう。

理屈では正しいと分かっていても、どこか寂しいと感じてしまうのは。

 

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実は、誰しもが元木選手と同じなのかも

私が会社の飲み会に行きたくない理由は、元木選手のそれと全く同じ理由からだ。

 

会社の飲み会には大勢の人が集まる。

自分とは価値観の違う人、気を遣わないといけない人、おしゃべりな人、無口な人。

仕事の出来る人、出来ない人、自己主張の強い人、弱い人。

飲み会に参加する全ての人が、普段の自分のスタイルで参加しているわけじゃない。

中には一言も話す機会も無く飲み会を終える人だっている。

 

だがそんな人だって、自分と気の合う、気心の知れた仲間だけが集まる小さな飲み会では実によく喋るのだ。

 

小さな、気の合う仲間同士の飲み会ならよく喋れるのに、会社の大きな飲み会では喋れない理由があるとしたらそれは何だろうか。

私は、スタイルの変化だと思っている。

例えばとある会社のとあるグループのメンバーが揃って一様に無口で、かつ他人任せの人間が多かったなら、「自分が率先して喋りかけ、リーダーシップを取るようにしていかないといけない」という気持ちになる。

一方でそのグループのメンバーの中に、明らかに自分よりもよく喋り、また率先してリーダーシップを発揮する人がいたら、恐らくそれ以外の人はもうそのグループで「自分が率先して喋ったり、リーダーシップを取るようにしよう」などとは二度と思わないだろう。

 

全ては自分の周囲の人間次第なのだ。

 

あるグループの中でユーモア度70、リーダシップ度80という能力を持つAは十分主導権を握れるが、もしそのグループにユーモア度80、リーダーシップ度90という能力を持つBという人間が現れたら、Aは二度とそのグループで主導権を握れない。

 

小学校には面白くて破天荒な人気者キャラがどのクラスにも大抵「一人」居る。
不思議なことに、「二人」ではない。
なぜだろう。

本当は小学校のクラスの中の誰もがみんな面白い。いつも誰かを笑わせることなんて本当はクラス中のみんな誰でもできるのだ。
本当は誰もがクラス中の人気者キャラになれるのだ。
自分より面白い人間なんて居ないと信じることさえ出来るなら。

 

だが、多くの人はそれが出来ないから、二番手、三番手に成り下がる。

「自分より圧倒的に面白い」という人を見つけると、多くの人はもうそのクラスで面白さで一番になることを諦める。それは無意識に、まるで当然のように、自然の摂理であるかのようにして。

 

甲子園の成績では勝ってるのに・・・

元木大介選手が巨人に入団した2年後の1992年、巨人はドラフト会議で元木選手と同じ甲子園のスター、松井秀喜選手を獲得する。

松井選手は高校生らしからぬケタ外れの打球飛距離と、甲子園で5打席連続敬遠という話題性で入団後あっという間に巨人のレギュラー選手となり、4番となり、そして巨人の顔となった。
一方で元木選手はその頃、まだまだ一軍の出場機会すら少なく、後輩である松井選手に随分と遅れを取る結果となってしまった。

甲子園でのホームラン数なら元木選手(6本)の方が松井選手(4本)よりも上なのにも拘らず。

私が会社の飲み会に行きたくない理由

余程恵まれた人でない限り、人は生きていくためには会社という組織の中に身を投じないといけない。

会社には人が大勢居る。

上手くやっていくためには、合わせないといけない。空気を読まないといけない。自分の立ち位置をしっかりと認識していないといけない。上手くやらないといけない。

そんな事はみんな分かってるし、大体みんな意識しなくても大抵上手くやって生きてる。

でもそんな一方で、そんな自分に100パーセント納得していない自分もいる。

本当の自分はこんなんじゃないんだよ。

いつか俺だってこんな風にやってみたいんだよ。

普段はこうだけどね・・・

俺の理想はね・・・

 

 

私が会社の飲み会に行きたくない理由は、そんな事を考えてしまい、決まって飲み会の解散の頃にはため息をついてしまうから、なのかも知れない。

 

この飲み会で自分はもっとやれたはずだ。

もっと自分のいい所を出せたはずだ。

 

大勢で飲むと、そうやって普段、なるべく考えないようにしようとしている事を、嫌でも思い出されてしまうからなのかも知れない。