朝、会社に通勤する度に必ず目にするのが、猛ダッシュする人々。
一体何を考えて毎朝毎朝猛ダッシュしているのか。
朝は余裕を持って出勤し、万一人身事故などで電車が遅延していた場合は潔く諦め、コーヒーでも飲んで堂々と遅刻する私のような人種には全く理解できない行動だ。
一体彼らはなぜ毎日毎日ああも短距離ダッシュを繰り返すのか。国体でも目指しているのだろうか。
猛ダッシュする位なら少しは早く起きてゆとりを持って優雅に通勤、通学するという考えが無いのだろうか。
それとも、彼らにしか見えない、時間に追われ短距離猛ダッシュをしないと見えてこない新世界でもあるというのか。
よろしい、では私もたまには彼らに倣い、実践してみようではないか。その、猛ダッシュ通勤とやらを。
某月某日、私は電車を降りると、次への電車へ乗り換えるために猛ダッシュする彼らの後に続いた。
いつもなら「アホか」と思いながらそんな彼らを、朝ごはんの支度を終えた母親のように見送り、エスカレーターは歩かず走らず、かと言ってスマホなども見ず、全くもってマイペースで行動する私からしたら、まさに狂気の沙汰という言葉しか出て来ない程のイカれた行為だった。
成る程、彼らは常に定期券をカバンやポケットなどに仕舞わず、走りながら手に持っている。
そしてなぜか階段ではなくエスカレーターを駆け抜ける傾向があるようだ。エスカレーターを使った方が機械の動力を利用する分、僅かにでも時間短縮ができる、という算段だろうか。
だが当然エスカレーターを使うリスクもある。
階段なら譬え前に遅い人がいようと走る方向を変えやり過ごせるが、エスカレーターだとそうはいかない。空気を読まず右側に立ち、猛ダッシュ族の通路を塞ぐ強者もたまにいる。
その場合、彼らは思いっきり「チッ」と舌打ちをするが、当然ながら舌打ちをしてみた所で状況は改善しない。なぜなら、空気を読まない人間はそれだけで強力な人間なのだから。その場合、どう見ても大きな時間のロスだ。
そもそもエスカレーターという乗り物自体、急ぐ人間と相性が悪いと思うのだが、なぜか猛ダッシュ族を見ていると、急いでいる人ほどエスカレーターを使う傾向がある。これは今後の研究の課題とするべきような気もするが、別にどうでもいい事のような気もする。
だが、そうやって彼らに倣って猛ダッシュ通勤を体験してみた結果、一つだけ分かった真実がある。
それは、彼らに倣って猛ダッシュ通勤を実践すれば、何かしらの電車に間に合う、という事実である。
ただ、間に合うとは言っても、その間に合った電車がそもそも何の電車なのか。そしてその電車こそが、彼らが真に家を出る前から乗りたいと願い、猛ダッシュを繰り返してまで待ち焦がれていた電車なののか、その辺は残念ながら分からず終いであった。
だが二度とこんな実験を繰り返す気もないので、恐らく今後も永遠に分からず終いなのであろう。
駅を降りて時計を見る。
いつもより10分も早く着いた。
もっとも、私はいつも会社の始業開始時間より45分前に最寄り駅に着くよう余裕を見て家を出るので、実際には55分早く着いた事になるわけだが。
結論
やはり私には、朝から猛ダッシュを繰り返す彼らの気持ちは理解できない。
早く目的地に着きたいのなら早く家を出ればいい。ただそれだけの事。
たったそれだけの事もせず、自分のそのズボラさや怠惰さを猛ダッシュという力技で毎朝補おうなどと、凡そ文明人の考え方とは思えない。
私が言うのも何だが、もう少しゆとりを持って毎日を生きたらどうなのか。
ちなみに私は朝、快速どころか急行列車にすら乗らない。普通電車で通勤する。
なぜなら、普通電車がもっとも空いていて、ゆとりを持って出勤できるからだ。
快速電車でまるで押し寿司と見紛うばかりに窓に押し付けられ、ムンクの叫びのような姿で毎朝出社する連中を毎朝長め、「一体なんなんだコイツらは。マゾなのか?」と軽い嫌悪感と同時に憐憫の情を抱く毎日である。
しかし、幾らゆとりを持って行動しようと、東京の朝の混雑具合ははっきり言って異常だ。それは認める。
別に急ぐつもりなどなくても、あの猛ダッシュを繰り返す連中の異様に殺気立った行為についつい感化され、知らぬ間に気付いたら猛ダッシュ族の一人になっていた、なんて人ももしかしたら多いのかも知れない。
一つだけ言えるのは、あの猛ダッシュを繰り返す連中を見ていると、多くの人の心からゆとりという気持ちが消える。
そして、知らず知らずの内に自分もせわしない動きをするようになっていく。
新宿駅などの朝は本当に殺伐としている。
上手くは言えないが東京という街は本当に色んな意味で病んでいると言えるのかも知れない。
小池都知事は知事選の公約の一つに「満員電車ゼロ」を掲げたが、もはや新宿や池袋のようなターミナル駅の混雑ぶりは人智を有に超えている。もはや人の力ではどうにもならないのだ。
あれをどうにかできるのは、もはや神のみであろう。
しかし、なんだかんだ言って日本は人口減少の少子化時代を迎える。
若者の数も減り、大学は定員割れが増え始め、このままもうしばらくすれば東京の満員電車も無くなるんじゃ?
そう思い、新宿駅の1日の利用者数の推移を調べてみた。
年度別新宿駅の1日の利用者数
1999年 756,772人
2005年 747,930人
2010年 736,715人
2015年 760,043人
2017年 778,618人(参考:JR東日本公式)
何これ。逆に増えてんじゃん…
まあ、何だかよく分からない国ですな日本も。